架空犯　東野圭吾

『架空犯』の物語は、都議会議員とその元女優の妻が自宅で変死体として発見されるという、衝撃的な事件から幕を開けます。

当初は無理心中の線も疑われましたが、遺体に残された不可解な痕跡から、他殺の可能性が浮上。捜査を担当するのは、前作『白鳥とコウモリ』でも活躍した五代刑事です。五代は、動機も証拠も不明な状況から、事件の影に潜む、まるで”架空の犯人”のような存在を追い求めます。

捜査が進むにつれて浮かび上がってきたのは、被害者夫妻とその周囲の人々が共有する40年前の「過去」。事件の鍵は、被害者の高校時代に起きたある自殺事件に隠されていました。

『架空犯』は、単なる謎解きミステリーではありません。事件の根底にあるのは、登場人物たちの青春時代の「選択」と、そこから生まれた40年分の「後悔」かもしれません。東野圭吾さんの作品は単なる推理小説ではなく、主人公の壮絶な過去や過ちが背景にあることだと思います。

誰もが持つはずの、人生の分岐点での些細な選択の積み重ねが、現代の重大事件を密かに結びつけていく展開は、読者に「もし、あの時こうしていたら・・・」という普遍的なテーマを突きつけるはずです。